医療に不採算部門はあるのか?
昨日、今年初めての熊本実践フットケア研究会を熊本中央病院でおこないました。
講師は小倉第一病院の石井先生、期待を裏切らない素晴らしいご講演でした。
さて、その中である病院の看護師さんがこう質問しました。
「私はフットケアを病院で頑張りたいのですが、〝お金を生まないので望ましくない〟と言われました。
今後、私はどうしたらよいのでしょうか?」
この質問に石井先生は、このように答えました。
「することでどのくらいお金を生むかではなく、しないことでどのくらい損をするかということです」
具体的には、フットケアをおこなわないことでどのくらいの足がトラブルを抱えるか
そのトラブルを解決するためにどのくらい費用がかかるか
また、トラブルによってどのくらい病院の評価が下落するか
という負の連鎖を考えなければいけないのです。
私たち医療者がよく言われるのは
「それは不採算部門だから」
「その行為はお金を生まないから」
というものです。
〝なるほどねえ・・・〟と思うのですが、これってとても不思議なことなのです。
だって、医療には直接お金を生まない行為や部署が山ほどあるからです。
具体的に考えてみましょう。
例えば、クリニックの外来の流れをみてみます。
受付(事務)→問診(看護師)→診察(医師)→検査(技師・看護師)→診察(医師)
→投薬・注射(医師・看護師)→会計(事務)
この中で、直接お金を生むのは診察(初診料)・検査(検査費用)・投薬・注射(処方箋料・注射手技料)だけです。
事務などは一度もお金を生みませんが、最初と最後の部分(事務)がないと外来医療は成り立ちません。
看護師について考えてみましょう。
実は看護業務(ナーシングケア)というのは基本的に行為そのものではお金を生みません。
看護師の人員配置や資格によってお金が発生するだけで行為で発生するわけではないのです。
〝点滴すればお金が発生するじゃない!〟とよく言われますが、〝点滴〟という医療行為は実は対人件費では赤字です。
〝点滴〟という行為は、準備→移動→針刺し→観察→移動→移動→針抜去→移動→片付け→廃棄と複雑です。
これを分単位の人件費で計算すると点滴注射(97点:材料費込み)という行為は割に合わないことが判ります。
面白いですね。
医療という行為は、一つ一つの付加価値(バリュー)を積み重ね、最終的に大きな価値を生み出すものです。
ですから、本来一つ一つのバリューの大小を競うものではないのです。
効率性は大事ですが、〝お金を生まない=価値がない〟ではありません。
よく間違えるのは〝単一の行為の価値がすべて〟と思い込むこと、
価値の連鎖(バリューチェーン)こそが大切なのです。
ナーシングケアがお金を生まないと言われて悩んでいる貴方
そんなことはありません
大切なのは、おこなわないことで失われる価値と最終的な価値の連鎖の総額なのですから。