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帝京大医学部付属病院での院内感染問題を考える

院内感染対策を批判するのであれば政府はきちんとした経済的バックアップを図るべき

帝京大医学部付属病院(東京都板橋区)で発生した多剤耐性の細菌アシネトバクターによる院内感染問題が、新聞やネットで広く報道されています。
詳細は新聞その他でご覧頂くとして、概要は次の通りです。
帝京大学医学部付属病院(東京都板橋区)で、多剤耐性の細菌アシネトバクターによる院内感染が起き、9月1日までに46人が感染した。ほぼ全員が血液や腎臓などの疾患のあるいわゆる日和見感染者。27人が亡くなり、このうち9人は感染と死亡との因果関係を否定できない。

ここで、注目すべき点は、またもやあろうことか業務上過失致死疑いで警察が動き出していることです。
医療における安全管理は大切ですが、ここでまた何故警察が動くのか?
この国の医療行政はいったいどうなっているのでしょう?

大切なのは、昨日・本日と報道されているこの病院の感染対策の弱さです。
なぜ、再三の勧告に従わないのか?
驚くのは、検査部での耐性菌の報告が感染制御部に上がっていなかったと言う点です。
*参考:asahi.com関連記事

耐性菌(可能であれば、耐性菌でなくとも感染症例はすべて)の報告はすべてICT(Infection Control Team)に上げなくては意味がありません。
ICTは、要望されてからはじめて動くのではなく、こちらから出かけて行くことに意義があるのです。
この規模の病院に感染症の認定ナースがいないことは驚きですが、専従1名はasahiの論調と違って一般的ではないでしょうか?
大切なのは各病棟毎に専任ナース(リンク・ナース)できればリンク・ドクターも置くことです。
こうすることによって、仮にラボから報告がICTに上がらなくても、いつも施設全体の状況をICTは把握しておくことができます。

報道の論調は概ね冷静で適切なものだと思いますが、感染症医・感染症専門ナースの数については1名がやっとというのが現状でしょう。
理由は簡単です、人がいないから・・・いても経済的理由で配置できないから。

行政が『感染管理・感染制御』の必要性をいうのであれば、現場にそれが可能な経済的環境を提供すべきです。
感染管理が全体として医療費の圧縮に繋がる(感染対策の経済効果)ことは、多くの論文で明らかです。
ICT(感染制御チーム)もNST(栄養サポートチーム)もその必要性は現場ではよく判っています。
でも、なぜ多くの病院が形ばかりでなくきちんとしたチームをおけないのでしょう?
答えは明確です・・・人的余裕・経済的余裕(経営的余裕)がないから。

今回、警察が業務上過失致死で動くのであれば、その対象は現場ではなくこうした状況を放置している厚生労働省ではないかと思うのは私だけでしょうか?

今回の帝京大学附属病院での大規模院内感染には、勿論病院のシステムの様々なエラーがあります。
それについては、責められても仕方のないものでしょう。
けれども、医療におけるリスクマネージメントとは何か? その原点を考えれば答えは明確です。

裁くことではなく、なぜこのようなことが起こったかきちんと分析し、今後二度と同様のエラーが起きないようきちんとした対策を立てることです。

リスクマネージメントの基本です。


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by ccr-net | 2010-09-04 18:51 | 感染管理
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