SENDA MEDICAL CLINIC BLOG

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本当にあった怖い話

ちょっと時季外れですが、剣咲あやめさんに寄せて

もう随分前のこと、

私はまだ駆け出しの医師で海辺のリハビリテーション病院に勤務していた。
出来てまだ二十年たらずだが、潮風のせいか4階建ての建物は妙に古ぼけている。
季節は丁度今頃、雨の降るある日、
私は同僚の医師2人と学会発表の準備のため、遅くまで1階医局で仕事をしていた。
丁度時計の針が11時を回った頃、
若い看護師のノリチャンが、蒼い顔をして医局のドアを開けた。
『やあ、ノリちゃん、どうしたの?』退屈していた同僚医師が顔を上げた。
『それが3階のAさんがいないんです。』
『他の病棟に紛れているんじゃないの?』別の医師が声をかける。
『いえ、どこにもいないんですよ』

Aさんは脳梗塞後の片麻痺患者で、認知症を併発している。
放浪癖があり、時々よその病棟へ遊びに行くことがある。
『鍵は?』ここでようやく、私も心配になった。
『1階はすべて締めてあります。8時の点呼の時点では、皆さんおられたんです。』
『そうか、それじゃあ、捜さなくっちゃね。』

120床の病院だが、リハビリテーション施設なのでやたら広い。
人の隠れる場所には事欠かない。
私たち3人と当直看護師3人、計6人で病院の大捜索が始まった。

30分ほど捜したが、Aさんはどこにもいない。
『外じゃないのか?』苛立った同僚医師が言った。
『そうだね、捜してみようか』
そう私が言ったとき、看護師が階段を駆け下りてきた。
『先生たち、4階の浴室です!』

4階には当直室という名の古ぼけた8畳の和室と付属の浴室がある。
出来た当時は特別室だったが、老朽化し当直室となった。
浴室は広く大人4名がゆったり入れる。
小さな窓が天井近くにある銭湯のような造りだ。
『俺、苦手なんだよなあそこ』階段を登りながら前をいく医師が言った。
『そうだよね、なんとなく気味が悪い』
言葉と裏腹に見つかった安堵感からか足取りは軽い。

4階に着くと、浴室の前にノリちゃんがいた。
『どうしたの?』
『この中なんですけど、鍵をかけて入れてくれないんですよ』
ドアのノブを動かしてみたがびくともしない。
『誰がいるの?』
『最初から鍵がかかっていたんです。でも、中からAさんらしい声がしたんです。』
確かに、他には誰もいない。
在院人数は一人を除き皆合っている。

『ねえ、Aさん開けてよ』痩せた医師が言った。
答えはない。
ただ、パタパタと音がする。
浴室の中を歩き回っているのだ。
もう一人の医師が思いっきりドアをひいた。
ガチャガチャと音がしてドアがひどくきしんだ。
『開かないね、困ったな。』
今度はガチャンガチャンと何かをたたく音がしてきた。
クスクスと笑う声もする。
『駄目ですよ、たたいちゃ。ねえ、Aさん出てきて下さい。』
看護師が優しく言った。
すると、急に静かになった。

『鍵はないの?』
急に思いついて私が言った。
『浴室なんで内鍵なんですよ』
打つ手はないか・・・と思ったとき若い医師が言った。
『ドアはずしちゃいましょ。僕がちょっと道具とってきます』
そういうとすぐに階段を駆け下りていった。

5分ほどで、彼が息を切らして戻ってきた。
『まだ開けませんか?』
皆が、首を振ると彼は道具を取り出しドアをはずし始めた。

そのとき、
3階から看護師が駆け上がってきた。
『先生たち、Aさんみつかりました!』
『え?!どこに?』
『自分のベッドで寝てらっしゃいます』

ガチャン・・・
もう一度、浴室で大きな音がした。
じゃあ、中にいるのは誰なんだ?

また、急に静かになった。
おそるおそるドアのノブを回すとドアは音もなく開いた。
中には誰もいない・・・

翌日、ノリちゃんが言った。
『Aさんの足濡れてました・・・』

その後、誰も当直室には泊まらない。
by ccr-net | 2010-07-11 16:11 | その他
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