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救急医療の未来は・・・

救急医療の採算性と未来

今更ながら海堂尊の『ジェネラル・ルージュの凱旋』をお正月に読みました。
荒唐無稽な話ですが面白いですね。医療関係者が読むと別の意味でまた興味深い作品です。
本日は今ちょうど『救命病棟24時特別版』があってますが、これも面白いです。
(以前通常版を見ているので本日はきちんと観ていません)
両作品に通じるのは救急医療の過酷さと不採算性です。

もうだいぶ前のことになりますが、大阪府医師会 山本時彦理事が救急医療の不採算性について自院を例に発表されています。
下記JapanMedicineより引用します。 

月間赤字は 250万~300万円も
 山本理事は、自院の山本第3病院(347床)における救急医療の現状として、救急車1台への対応につき医師、看護師、検査技師、事務職など平均9人夜勤体制(宅直除く)の人件費だけで4万~6万円がかかっていると言う。具体的に、08年度診療報酬改定後の点数に基づき昨年4月と5月の診療科別の救急外来原価計算を行った。
 診療科は、標榜科目の内科、外科、脳外科、整形外科。4月分では、救急搬送253件、夜間救急198件の救急外来の医業収入は(入院した患者については入院初日の処置料だけで入院料を除く)、投薬、注射、処置、手術、院内検査、画像診断、その他患者の自己負担分を合計すると約1300万円になる。
 これに対して支出・経費は、人件費、薬剤、検査などの材料費、医療機器・器具などの減価償却費などの直接経費の合計が約1590万円となり、290万円の赤字。同様に5月分は救急搬送・夜間救急件数が534件。救急外来の医業収入は約1380万円。
 支出が約1630万円で約250万円の赤字。4月と5月の収支表を比較すると、5月の救急件数の増加分が、不採算性が高い外科、整形外科の救急患者の受け入れが増えている。それに伴う医療材料の経費もかさみ、救急受け入れ件数の伸びが医業収入として反映できない救急医療の実態が浮かび上がる。特に、5月には看護助手も使わず、人件費の圧縮に努めたが、毎月250万~300万円の赤字が累積している。

以前も書きましたが、これは山本先生の病院だけでなく救命医療の現実です。
理由は検査料・処置料・救急加算などが安すぎるからです。
救急医療は現時点で採算性がありません。

これを改善するには2つしかありません。
ひとつは時間外加算・救急加算を最低でも倍以上に増額すること、
もう一つは救急医療への補助金を増額することです。

加算点数の増額は患者負担を考えると現実的ではありません。
すると補助金の増額ということになります。
前出の記事によると、“山本理事は、「大阪府の場合も、各自治体から救急病院へ補助金がでているが、受け入れ実績に拘わらず1病院当たり年間100万円程度。月額(約8万円程度)で見たら焼け石に水としか言いようがない」と述べた”とあります。

その通りで、こうした広く薄くという補助金はばらまきでしかなく、実効はありません。
救急医療の実績に応じて補助金は交付し、山本先生の施設であれば年間5000万円くらいの補助があれば救急医療の維持が可能となります。

今までこうしたことがあまり表に出なかったのは、一部門に採算性がなくとも他の部門で補えたからです。
現在は、ここ10年間の医療費抑制という行政の方針のもとすべての医療機関は余裕が全くなくなりました。

現在、医療費配分の見直しということで診療所の再診料を病院並みに下げるという案が財務省を中心にでてきています。
医療の現場としては“またか・・・”という怒りと諦めに似た気持ちがでてきています。
一般の方は“診療所再診料が病院再診料より高いのはおかしいのではないか”とお思いかもしれません。

ここで、再診料についていくらかご存知でしょうか?
病院の場合600円・診療所の場合710円です。3割負担の場合は、各180円・220円です。
これは高いでしょうか?
診療所が高いのではなく、病院が安いのです。
また実際には病院受診の場合、特定機能病院のような中核病院ではさまざまな加算点数がつきますから最終的に高くなることもあります。

こうした再診料の設定には厚生労働省による医療政策があります。
『できるだけ病院の再診患者を減らしスタッフの負担を軽減する、病院は入院・手術、外来は診療所へ』というのが基本的な考えです。
私が救急病院へ在職していた当時は、『中核病院は基本的に一般外来診療(再診)をなくす』というのが国の目指す方針でした。
これは間違ってはいないと今も考えています。
医療機関の機能分担は絶対に必要です。
けれども日本の医療はすでにあまりにも廉価です。

現在の状況は、救急医療だけでなく病院も診療所も限界にあります。
もし、現在財務省を中心に議論されている医療費のシフトがおこなわれば、間違いなく多くの診療所はつぶれます。
一度壊してしまったものは元に戻すのにその何倍もの努力と資金が必要になるのは、現状の小児医療・産科医療をみれば明らかです。
現在の医療状況を招いたのは明らかな政策ミスです。
このミスはもう二度と繰り返してはいけません。
そうしたことを新政権に期待します・・・

さて、明日からまた通常の診療体制に戻ります。
現状は、まだ良い医療をおこなえばなんとか医療経営は成り立ちます。
診療所には診療所の医療、病院には病院の医療・・・
両方とも大切です・・・
救急医療の未来は・・・_b0102247_23151670.jpg

これをみると今でもわくわくします。

救急にはつらさと喜びがあります・・・

若い先生には不可欠の分野です

でも、私はもう戻れません・・・

私の仕事は外来と在宅にあります。



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by ccr-net | 2010-01-03 23:20 | 医療
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